第4章 友の訃報
数日後、マルーは資料室に忍び込んだ。
通路に誰も居ないタイミングを見計らい、能力を使い施錠された部屋に侵入できた。半覚醒状態ということもあり衣服も持ち物も変質させられるのは非常に都合が良い。必要最低限の、時計と手帳と灯りを持ち込んだ。
まだ身体をアメーバ化させ扉の隙間から入り込んだだけだが、無許可で資料を漁ることに何となく罪悪感を抱いてしまう。
厨房で食料品を盗んだり点呼後に部屋を抜け出したりなど本部内での道理に反することは今まで散々やってきたが、こんなにも緊張感でドキドキしているのは初めてだ。
暗い部屋を手探りに進む。
鍵付きの部屋の奥にある更に鍵付きの部屋。持ち出し厳禁の、閲覧者すら限られている特別な資料室の扉の隙間もすり抜けた。
探している資料があるとしたらここだ。
そこでやっと手に持った灯りを点け、マルーは室内を見回す。
部屋自体はそこまで広くないが、等間隔に並んだ棚にぎっしりと箱が積まれている。箱には資料の内容が短く題されているものの、目当ての情報をすぐに見つけるのは難しそうな量だった。
端から探すのが無難だろう。
入口近くの棚を上から見上げる。棚の間隔や高さなどは身の丈が3m前後の人間でも見やすいような造りになっているようだ。元帥や大将などの人間にそういう体型が多い。
センゴクが見やすい位置にあるとしたら上段の方にある可能性が高い。
シラミ潰しに見ていくが、なかなかそれらしい題名の箱がない。そもそもどういう任務なのかわからないから箱の中も見て確認しなくてはダメそうだ。
マルーは時間を気にしつつ、夜明け近くまで探した。
『そう簡単には見つからないか……』
非番の日で人目の付かない時間帯に資料室に忍び込むのを繰り返して5ヶ月、ようやくロシナンテが関わっていた任務の資料を見つけることができた。いつも本部に居るわけでもないから殊更に時間が掛かる作業だった。
箱から出した目当てのファイルを1度閉じ、やっと見つけられた余韻を噛みしめるように抱き込んだ。
『センゴク元帥……ごめんなさい』
極秘任務の資料を開ける前に、小さな声で呟く。明らかな違反行為に加え、まるで墓荒らしでもしているかのような後ろめたさから出た謝罪の言葉だった。
これはいけないことだが、始めた以上は止まりたくはない。