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【OP】さよなら、My Dear

第3章 ドジっ子


「マルー」
『何だ………ヴェッッ!!?』
ロシナンテに名前を呼ばれて振り向くと、不意打ちで顔に煙を吹き掛けられた。
『ゲホッ……何しやがるロシナンテ! ヤニ臭いだろうが!』
「わはは! 引っかかったな」
愉快そうにしながらロシナンテが肺いっぱいにタバコを吸う。
すっかり短くなった巻紙を灰皿に押しつけながら、ロシナンテは再度マルーに呼気を吹き付けた。
『またそれ! 一体何のつもりだ?』
多少怒りながらマルーが訊くと、ロシナンテは思い返すように首を傾げる。
「相手の顔にタバコの煙を吹きかけると何かの合図になるって聞いたんだ。1回やってみたくてな」
『2回もしやがって。で、何の合図だって?』
「……何だったっけな? あんま詳しく教えられなかったけど、やるなら好きなやつだけにしとけって言われたな」
ニッと微笑んでからロシナンテはマルーの持つタバコを取り上げて残りを楽しみ始めた。
『はぁ……? なんか妙な含みがありそうだから、それ私以外にはするなよ。どっかで恥かいても知らないからな』
何を吹き込まれたかは知らないが、ロクなものではないだろう。
ロシナンテに忠告してマルーは煙たい場所からさっさと離れようと踵を返したが、何やら焦げ臭い。
布の燃える匂いだ。
数歩進んだところで振り返って見ると、こちらに手を振って見送るロシナンテの肩が発火していた。
『ロシナンテ!! コート燃えてる!』
マルーが慌てて駆け寄って将校コートをむしり取る。
『おいッ、水あるか?』
火元をバシバシ叩きながら訊くと、ロシナンテは余裕ありげに答えた。
「燃えてるところを押さえるように丸めて酸素を遮断するんだ。窒息消火ってやつらしい」
その通りにすると、わりとすぐに火の気配はなくなった。ただし焦げた匂いが鼻につく。
『慣れてるな……。もう既に何回か燃やした後なのか』
「床でゴロゴロ転げ回る消し方もあるんだとさ。前に消火してくれた上官が言ってた」
タバコを勧めた上官もまさかロシナンテのドジがここまでとは思わなかったのだろう。勧めた上官と消火した上官が同じ人なのかどうかはマルーには分からなかったが、さぞかし驚いただろうなと呆れの籠った溜め息を吐いた。
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