第13章 君に名前を呼ばれたい
それが、鳥束くんが『何でも言う事を聞いてくれる私』にしてほしい事なのだろうか。
「……下の名前?」
私が聞くと、鳥束くんは頷く。
「言ってたでしょう!?ㅤ何でも言う事聞くって!」
鳥束くんは、両手を顔の前に合わせて頼み込むようなポーズを取った。
「だから言ってないって……。まぁ、それくらいならいいけど」
とんでもない事を言われたら断るつもりでいたけれど、名前を呼ぶ程度ならお願いを聞いてあげても構わないだろう。
私は、コホンと一つ咳払いをする。
「零太」
別に呼び捨てにする必要はなかったと、呼び終わってから気づく。
鳥束くんに視線を向けると、彼は特に反応を示さなかった。
「……い、言ったけど?」
あまりにも何も言わないものだから、私から反応を促してしまった。
ようやく鳥束くんは動き出す。彼は、手で口元を覆った。
「……ありがとうございます」
それだけ言って、彼は自分の教室へ戻って行った。
急に存在しない約束を持ち出された事も、お願いの内容が『名前を呼んでほしい』だった事も、何一つ理由が分からなかった。あと、妙にリアクションが薄かった事も。
……何だったんだろう?