第34章 エスコート、あるいは育児
いつまでも階段の傍で会話しているんじゃなくて、そろそろ集合するべきだろう。それに、位置的にこれから更衣室からこっちに来る人からしたら邪魔になるし。
「一人であそこまで歩けます? 手ぇ貸しましょうか?」
鳥束くんは、私が集合場所まで行けるのか心配なようだ。やっぱりママでは……?
「平気平気。あとはもう平坦な道だからね!」
私はドヤ顔で言う。……あ、そうだ。
私は鳥束くんに顔を寄せた。
「っ!? なっ……名前さんっ!?」
ここまで近づけば、目の悪い私でも流石にはっきりと見える。
「助けてくれたし、最後までぼやけててちゃんと顔見えてないままなのもなぁと思って」
「は……?」
鳥束くんの顔が赤くなっている。
そういえば、今はバンダナ外してるんだなぁ。まあ、プールの授業だからそれは当然なんだけど。
「ん、よく見える。……助けてくれてありがとうね。じゃあ、お互い補習頑張ろう!」
私は視力が悪い分慎重に歩くので、普通よりも歩くスピードが遅い。だから、喋りたい事を喋り、さっさと集合場所に向かう事にした。
「なっ……そ、それはズルくないっスかぁー!?」
背後から鳥束くんの悲鳴が聞こえる。こういう感じの鳥束くんはレアなので、私は思わず笑ってしまった。
ぼやけるから顔は見えにくいけど、彼のレアな雰囲気だけでも感じようと振り返った──瞬間。
「あっ」
私はプールサイドの水溜まりを踏んで滑った。危うくこけそうになるが何とか耐える。
「名前さん、二度と『平気』とか言わないでください」
「……ハイ」
全くもってその通りだ。彼の言葉に、私は深く頷くのだった。