第12章 私は今だけ『催眠術が効かないタイプ』
鳥束くんは、多分私たちの部屋がどこなのかを知らない。だから、先頭を歩かせるべきではないだろう。
鳥束くんがただ後ろをついていくだけで済むように、私はさりげなく先頭を歩いていた。
さっさと部屋の扉を開ける。
「プロレスしよう!ㅤ服の脱がせっこでもいいっスよ!?」
椅子に座ったりその辺に立っていたり。各々が行動を取り始めた時、鳥束くんがそんな事を言い出した。
「何言ってるの照橋さん!?」
「どうしたの心美ちゃん!?」
皆からしたら照橋さんが言っている事になるから、悲鳴にも似た声が部屋に響く。
私が思わず顔を顰めていると、鳥束くんが私に寄ってきた。
「ほら苗字さん、お手本見せてあげよう。いつもやってるみたいに!」
普段私を『名前さん』と呼ぶ鳥束くんが苗字で呼んでくるのは、照橋さんを意識しての事かもしれない。
当てずっぽうで言ったのか私と照橋さんが会話しているのを聞いての事なのかまでは分からないが、彼なりにそれっぽい喋り方を心掛けているのだろう。
その姿勢は評価するが、彼の言動がその努力を台無しにしている。
「ほらほら、はや、くっ……!」
鳥束くんはゴリ押しにかかる。
さらに距離を詰めてきた。
妙な手つきでにじり寄ってくる。やめてほしい。
成りすましの事情を知っているから話に合わせてくれる可能性にでも賭けて、私に話しかけてきたのだろうか。
「何度かやった事あるみたいな言い方しないで!?」
勿論やってあげるわけがない。私はシャウトした。