第5章 優しさに触れ
早速、私は借りたパーカーに袖を通す。
当たり前だけれど、私が着るには大きかった。
「あはは、ぶかぶかっスね」
そう言う鳥束くんの頬は、少し赤くなっている。
彼の服を着ている実感が湧いて、私まで照れてしまった。顔に熱が集まっているのが分かる。
「本当にありがとう。使わせてもらうね……!」
「どういたしまして!」
手を振りながら、彼は同じグループの友達の元へ向かっていった。
私は、再び一人になる。
ぶかぶかと袖の余っているパーカーには、安心感があった。
ただ上着を着ているからじゃなくて、きっと、鳥束くんが貸してくれたからこその安心感だろう。
何故か身体中が熱くて仕方がない。
特に運動をしたわけでもないのに、心臓がうるさかった。
私は、パーカーの袖を握りしめる。
何でこんなに、落ち着かないんだろう──。
ぼうっとしていたら、いつの間にか海を離れる時間になっていた。
ずっと海風に当たっていたからか、体がべたつく。
一回自覚すると、凄く気になってくるなぁ……。
私は立ち上がり、更衣室へと向かった。