第5章 優しさに触れ
私は、一年中長袖の制服を着ている。
下はタイツを履いているから、露出が全くない。
中学生の頃からそうだった。
肌を見せることが、苦手なのだ。
だから、水着の上から上着を羽織りたかったんだけれど……。
まさか忘れてしまうなんて。ため息が出てしまう。
しかし、いつまでも更衣室の中でうじうじとしているわけにもいかない。
すでに私以外の女子勢は、全員更衣室を出ている。
きっと男子たちも待っていることだろう。
……これ以上、ここにはいられない。
私はなけなしの勇気を絞り出して、きもち胸元を隠しながら更衣室の扉を開けた。
中学三年間と高校生である今を足して、計五年ぶりに着る露出が多い服である。緊張する……!
太陽が眩しくて、私は目を細めた。
そんな私に気がついたのか、夢原さんが声をかけてくれた。
「あ、こっちこっち。……苗字さんもぶち抜くんだね……」
「え?ㅤぶち抜くって?」
夢原さんに目を逸らされた。どうしたんだろう。
「いや、こっちの話だよ!」
「そうなんだ?」
あまり納得はいってないが、これ以上聞いても答えは出なさそうだ。追求はやめておこう。
「苗字さんはどうするの?ㅤ泳ぐ?」
そうだった。
上着の事に気を取られていて忘れていたけれど、更衣室を出たらそれで終わりじゃないんだよね。
むしろ、ここからが本番まである。
「私、泳げないんだよねぇ。ここら辺を散歩でもしておこうかな」
海にいる時間は、結構長い。
その間、泳げない私は一体何をしていればいいのだろうか。
散歩するにも限度がある。流石に何周も同じ所を歩きたくはない。