第32章 一人前のミルクティー
飲むとは答えたけど、これよくよく考えたら関節キスでは……?
零太は、特に何も言ってこない。意識しているのは私だけなんだろうか?
いや、まあ、零太が気づいているにしても気づいていないにしても、飲んでいいと言われているんだから飲もう!
決意した私は、ミルクティーを受け取った。
左手におにぎりを、右手にミルクティーを持つ女子高生の誕生である。
……このままでは私に出来るのはおにぎりを食べる事だけだ。
「……持ってて」
「はいはい」
零太におにぎりを持ってもらった私は、ペットボトルの蓋を開けた。
蓋をどうするか一瞬迷って、テーブルの上に置く事に決める。
飲み口をじっと見つめてから、私はミルクティーを飲んだ。
一口、二口と喉を上下させる。
口の中に、ミルクティーの甘い味が広がった。
このミルクティーの味と──飲み口を共有している事実が頭の中を駆け巡り、私は口を離した。
「あ、ありがとう」
私は蓋をしてから、零太にミルクティーを返した。その代わりにおにぎりが返ってくる。
手放していたのはミルクティーを飲んだ少しの間だけなのに、おにぎりを持つのが何だか久しぶりな気がした。
これ関節キスだなーという思考が未だ離れず、私は取りあえずおにぎりを食べた。
ミルクティーを飲んだ直後なせいで、口の中によく分からない味が広がる。失敗した、先に麦茶を飲むべきだったな……。
嚥下しつつ顔を顰めていると、そんな私を笑いながら、零太はキッチンへ向かって行った。
関節キスの件と、口の中にミルクティーが残っているのにおにぎりを食べた件で気づいていなかったが、どうやらお弁当は温まったらしい。電子レンジの音が、完全に耳を通り抜けていた。