第32章 一人前のミルクティー
お弁当を持った零太がリビングに戻ってくる。お弁当をテーブルに置き、零太は私の隣に座った。
「あれ? 名前さん、顔赤くなってますよ?」
頬杖をつき、零太はニヤリと笑う。
……もしかして、関節キスって事気づいてた?
私がそれを聞くと零太は、
「そりゃ気づいてましたよ!」
と笑う。
「飲み口見てから飲む名前さん、可愛かったですよ」
そう言ってから零太は、私が閉めた蓋を開けてミルクティーを飲んだ。いつの間にか中身は残り半分になっている。
これも、関節キスなわけ、だけど。
零太は平気なの? 照れたりとかはしないのかな……?
どことなくもやもやとした気持ちを抱えつつ、そんな気持ちを払拭するべく、私はおにぎりの残り一口を口に放り込んだ。
「あー、その」
麦茶で口の中のご飯感を流していると、隣から零太の声が聞こえてくる。
「……関節キスっスね」
零太を見てみると、彼は真っ赤になっていた。
「自分が飲む側になったら急に恥ずくなってきたっつーか……あーもう!」
叫んだあと、彼は机に突っ伏す。時折くぐもった呻き声が聞こえてきた。
「お互い慣れてないみたいだね」
「笑わないでくださいよ……」
「ははは!」
「更に笑う奴がいますぅ!?」
くぐもったツッコミを聞き流し、私は空っぽになったコップに麦茶を注いだ。
零太も照れていると分かって、頬が緩んでしまう。
私はポーカーフェイスは手に入らないっぽい。
私は零太の肩を軽く叩いて、
「ほら、せっかくお弁当あっためたんだから。食べよう食べよう!」
と言った。
起き上がった零太は割り箸を袋から取り出して、そこで動作が止まった。
「どうかした?」
「コップ出して、ミルクティー分けましょう」
「直で飲む、のじゃなくていいの?」
「コップを! 出しましょう!」
「はーい」
私は立ち上がり、棚からコップを二つ取り出す。
振り返ると、まだ顔の赤い零太がむっとした顔をしているのが見えた。
二つのコップに、均等になるようにミルクティーを注ぐ。
たまになら、ひとつのミルクティーを分け合うのもいいかな、なんて思うのだった。