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【斉木楠雄のΨ難】鳥束だけの短編集

第31章 それは後の


苗字名前は分からない。

鳥束零太と目が合わない。時々、一瞬視線が交わる事もあるが、そうなるとすぐに視線を逸らされる。
彼は何処か上の空のように見え、かと思ったら、こちらを気にしている素振りを見せる。

目印となる電柱で待ち合わせをして、歩く事数分。そこで、自身の恋人である鳥束の様子がおかしい事には気づけたが、理由までは分からなかった。

昼休憩、ベンチに座り彼と昼食を食べている今も答えは出ず、目の合わない事に、苗字はもやもやしたものを抱えていた。

これ以上考えても、恐らく答えは出ないだろう。思い切って聞いてみようか……。

お互いに昼食を食べ終わり、一息ついたあと。

決心した苗字は、
「あのさ」
口を開いた。

「零太、今日、様子おかしくない……?」

苗字がそう言うと、鳥束はびくりと肩を揺らした。こんな反応を見せるという事は、確実に何かがある。

「体調悪いとか? 大丈夫?」

「大丈夫です。元気っスよ!」

鳥束はぎゅっと拳を握り、元気である事をアピールした。

体調が悪いのではない。ならば、理由は何だ?


……ああ、もしかして。


「……私、何かしちゃったかな」

「ちがっ、違います!」

苗字の言葉に被せるように、鳥束は言う。

初めは、ただ不思議なだけだったのに。どうしてだろうと、思っていただけだったのに。

急に、不安な気持ちに思考が支配されてしまった。

私は、零太にとって嫌な事をしてしまっていたのかな? そればかり考えてしまい、その不安感は声に出ていた。
もっとさらっと聞くつもりだったが、まさかこんなに深刻な雰囲気にしてしまうとは。

(やらかしたな……)

己が失敗に、苗字は緩く笑みを浮かべた。上手く笑えているだろうかと、頭の片隅で考える。

「ごめん。なんか、変な空気にしちゃって」

どう行動をすれば良いのかが分からなくなり、苗字は何となく弁当箱に触れた。


理由は言いにくいが、それでも、言わなければならない。

苗字に、辛そうな顔をさせてしまったのだから。

「理由……、俺が何言っても、引きませんか?」

鳥束は苗字としっかり目を合わせ、真剣な表情で彼女に聞いた。
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