第26章 この時期毎年崖っぷち
斉木の絵日記が全く終わっていない事を知った海堂達は、宿題を終わらせるという目的を中断して、斉木の絵日記の手伝いを買って出た。
一方、苗字はキリのいいところまで進めようと、黙々と宿題を写していた。
見開き二ページの最後の空欄を埋めて、一息つく。
まだ宿題は全て終わらせてはいないが、少し休憩をしよう。そう思いながらちらりと斉木の絵日記を見遣ると、八月二日の欄に絵と文字が書き込まれていた。
【八月二日
昔のツレとバッタでタコパした。
タカシひとりでソッコーで完食!!
スゲーだろ!?】
不自然過ぎる文面を読んだ苗字は、
「ふ、くくっ!」
思わず笑ってしまった。
「タカシ大好物かよ、あっはっはっは!!」
何とか笑いを引っ込めようとする苗字だったが、爆笑する海堂達を見ていると、それも上手くいかず、彼らと共に笑い続けてしまった。
「ははは!」
苗字の笑い声を聞いた燃堂が、
「おめーも相棒の絵日記手伝うか?」
と苗字を誘う。
「うん、やるやる!」
苗字は鞄から絵日記を取り出すと、ドヤ顔で絵日記の表紙を彼らに見せつけた。
『何で持ってきてるんだ』
「あれ、何でだろう? ……必要な気がした、とか……?」
何故苗字は絵日記を持ってきていたのか。ほんの少しの謎を残しつつ、彼女も斉木の絵日記を救うメンバーに加わった。
「八月三日の苗字の絵日記を見せてくれ」
海堂に言われ、苗字は八月三日のページを開き、絵日記を海堂に手渡す。
【八月三日
友達と映画館に映画を観に行った。とっても面白かった!
映画を観たあとはファストフード店でお昼ご飯。
映画の感想を喋りながら食べるのも良いなぁと思った。】
女性らしい丸っこい文字で書かれた文。絵を描く枠の中を見ると、そこには苗字らしき女の子と、紫色の髪をした男の子が描かれているのが分かる。
「おー、絵ぇうめぇな!」
燃堂に褒められた苗字は、
「ありがとう」
と言い、口元を緩ませる。
何の映画を観に行ったのかと聞こうとした窪谷須。
そんな彼よりも先に、
『これ鳥束か?』
斉木が苗字に問いかけた。