第26章 この時期毎年崖っぷち
そんな彼女らの叫びが届いたのか、斉木は、彼の宿題を机の上に出してくれた。
苗字は目的の教科である英語の宿題を手に取り、パラパラと捲ってみた。
回答を書く空欄は全て埋まっている。つまり、これは、彼が英語の宿題を全て終わらせている事を示している。
どうやら他の教科もしっかり終わらせているらしく、
「うわー、全部終わってんじゃん! スゲー!」
歓喜の声が聞こえてきた。
(よし、やるぞ……!)
苗字は気合いを入れて、宿題を写す作業に取り掛かった。
宿題を写す事数分。
苗字は、黙々と作業を進めていた。
素直に斉木の回答を写したり、或いはわざと間違えてみたり。
消しゴムで消して努力の跡を残す──なんて、どこで学んだのか、より不自然に見えないテクニックを使っていた。
時々海堂達の会話に混ざりつつ宿題を写した結果、半分程宿題を終わらせる事が出来た。
半分は終わった、それが苗字にある種の余裕を生んでおり、この段階で彼女が雑談に混じる割合が増えていた。
まずは宿題を終わらせるべきでは? それが彼女がやるべき事のはずだが、たとえ写すだけであっても英語に触れたくないのか、彼女のペンは止まっている。
今は、苗字は大体の宿題が終わっているらしいという話になっていた。
「凄いな、あの量をちゃんとやってたのか……」
窪谷須が、机の隅に積まれた斉木の宿題を眺めながら言う。いくら夏休みの期間が一ヶ月あるとは言え、この宿題の量は如何なものか。
「あはは、大変だったよ。絵日記は楽しくやれたんだけどね」
苗字はそう言いながら笑った。絵日記と口に出した事により、この夏休みに起きた出来事を思い出す。
苗字が夏休みの回想を始めようとした時、おもむろに斉木が立ち上がった。
彼は鞄をひっくり返して、中身を全て出す。
すると、まっさらな絵日記が出てきた。
『高校生の宿題でこんなものがあるとはな……』
「そ、それは私も思ったけど……」
斉木の呟きに苗字は同意する。最終的には楽しく取り組めたが、日記を書く宿題があると知った時は、高校生で……? と、疑問を浮かべたものだ。