第26章 この時期毎年崖っぷち
「もう斉木様しか頼れません! どうか私を助けてくださいッ!」
自身の目の前にいる斉木楠雄に対して、苗字名前は九十度のお辞儀をした。
「宿題を写させてください!」
そのままの姿勢で、ここに来た理由を告げる。
ちらりと斉木の様子を伺うと、彼は玄関の扉を閉めようとしていた。
「待って待って! これ! これで何とか!」
苗字は、慌てて鞄の中に入れていたコーヒーゼリーの箱を取り出し、斉木に差し出す。
苗字は、斉木がコーヒーゼリーが好きな事を知っていた。
これを渡せば、斉木は宿題を写させてくれるのでは? そう考えた苗字は、斉木の家に行く道すがら、コーヒーゼリーを買っていたのだ。
ドラマに出てくる、賄賂を渡す悪い人はこんな気持ちなのかな、なんて頭の片隅で考えていると、斉木は差し出されたコーヒーゼリーを受け取り、
『…………入れ』
苗字を家に上げる許可をくれた。
(良かった、これで多分何とかなる……!)
内心ガッツポーズをした苗字は、
「お邪魔しまーす!」
と言いながら、斉木家に足を踏み入れた。