第19章 さらば日常
季節は秋。涼しい風が吹き、私の髪を揺らす。
このくらいの気温が一番過ごしやすいんだけどなぁ。
数週間もすれば、きっと寒くなるのだろう。快適な環境とは儚いものである。
今だけの幸せを噛み締めながら、上を見上げた。
頭上には爽やかな青空が広がっている。見ているだけで晴れやかな気分になるようだ。
降り注ぐ太陽が心地良く、私は目を細める。
平和だなぁ……。私の生活もこんな風に平和に過ぎていくといいんだけど。
ぼんやりと考えていると、
「名前さーん!」
背後から声が聞こえてきた。
何度も聞いた事のある声。
振り返ると、ブンブンと手を振りながらこちらに駆け寄る鳥束くんが見えた。
……鳥束くんが見えた!?
目を白黒させた私は何も喋る事が出来なくて、
「えっ、あっ!?」
なんて、何の意味もなさない言葉しか口から出てこなかった。
鳥束零太。斉木楠雄のΨ難に登場するキャラクターだ。
霊能力者であり、澄んだ目をしたクズと称されるこの鳥束零太は私の推しである。
斉Ψの中で一番好きだと友人に言うと、『マジで?』なんて意外そうな顔で返されてしまったが、誰が何と言おうと私は彼を愛している。
確かに彼の作中の行動はアレな感じな事もあるが、それが良い……良くない? 良いよね分かる!
まるで誰かと会話しているように考え事をしてしまっている辺り、今の私は暴走気味なのだろう。推しについて考えているのだから仕方がない。
単行本は何度も読み返したし、アニメもよく観ていた。鳥束くんのいる回は特に再生していたなぁ……。
私のお気に入りは断食の回だ。お座りしちゃう鳥束くんが可愛くて、画面の前でにやけていたのを思い出す。