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【斉木楠雄のΨ難】鳥束だけの短編集

第19章 さらば日常


「うっ……!?」

単行本をぼんやり眺めていると、突然目眩に襲われた。

視界がおぼつかなくなる。

幸い床に座っていたから倒れ込んで怪我するなんて事にはならなかったが、目眩が強烈過ぎてしんどい。

朦朧とする意識。視界がぐわんぐわんと回る。

経験した事のないレベルの目眩と戦っていると、私の頭の中に記憶がなだれ込んできた。


遅刻しそうになって、慌てて朝食をかき込む私。

授業を受けている様子。

行事でクラス写真を撮っており、ポーズに迷い結局無難にピースを選んだ私。

テレパシーのせいで斉木くんに秒で隠し事がバレて焦る私。

鳥束くんと廊下で話している私。


「何、これ……っ!」

声を絞り出す。

まるで走馬灯かのように、次々と様々な出来事が頭に叩き込まれてゆく。

暫くするとそれも止み、同時に目眩もなくなった。

急になだれ込んできたこの記憶は、まるで元々私が経験した事であるかのように定着している。記憶喪失していたけど、忘れた記憶を取り戻したかのような。

いやでも、私は漫画の世界の住人ではない。現実を生きている人間だ。……まぁ今、その漫画の世界に来ちゃってるっぽいんだけど。

私のPK学園の生徒証とか制服があったし、お母さんはこの状況に違和感を持っていない。

私の生きている場所が、現実世界から斉Ψ世界にシフトしたのだとしたら。

苗字名前が、『いきなり現れた人間』にならないための。

そのための辻褄合わせであり、つまり。

「これって『斉Ψ世界にいる私』の記憶って事……?」

まさかね、と。

私の独り言は、誰にも聞かれる事なく自室に響いた。
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