第3章 要さんは多分推しにグイグイ行くタイプ
要ユウキさんは靴を履いた。
扉に背を向けて、私としっかり目を合わせる。
「今日はありがとう。君のおかげで、仕事を頑張れそうだ」
「じゃあその、また……」
にこやかに笑う彼女に、無意識のうちに返事をしていたから、つい『また』なんて言ってしまった。
これじゃあ、もっと会いたいみたいに聞こえるんじゃ!?
内心慌てふためいていると、要ユウキさんは笑みを浮かべながら、
「ああ、また。……葉月さん」
と言い、家を出た。
今、名前──。
なぜだか擽ったい。
この気持ちの処理の仕方が分からなくて、私は自分の服を掴んだ。
扉が閉じる。
さっきまで騒がしかった家に、今は私一人しかいない。
ふと窓を見やると、澄んだ青空が広がっていた。