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イケメン戦国 ✿••┈恋綴る月絵巻┈••✿

第1章 白と黒、灰と雨/前編(織田信長)




それから半刻ほど経っただろうか。

気合いは十分なのだけれど
放つ矢はどれも失速し
的へのあと少しが届かないでいた。


「はぁ。今日もだめか…」

「あんた、変な癖がついてるから
 直したほうがいい」

「癖?」

「うん。構えて」


言われるままいつもの構えをすると
前後から眺めるように
家康がぐるりと私の周りを歩く。

「重心がずれてる。
 体が少し後ろに反りすぎ」

そう言って、真っ直ぐになるように
優しく私の背中を押した。

「それと、こっちの肩が上がりすぎ。
 余計な力は入れなくていい」

今度は左肩を指摘され
上からそっと押さえられた。


…何だろう。
あまり優しく接してくれることが無いからなのか
すぐそこに感じる家康の気配に落ち着かない。

ってそんなこと考えてる場合じゃない。

せっかく教えてくれてるんだから
真面目にやらないと。


直された姿勢のまま矢を放つと
さっきよりも勢いに乗って飛んでいく。

「っ!!」

的には刺さらなかったものの
的を超えて後ろの塀にぶつかり落ちた。


「すごい!飛んだよ、家康!」

「…当たってないけど?」

「そ、それはこれからだよ!」

「ははっ、家康様は厳しいですね。
 私はお茶でも淹れて参りましょう」



弓を構え続けてきた両腕は重く
間もなく限界が来そうだった。

明日はきっと筋肉痛だな…

「そろそろ腕が痛いんでしょ。
 今日はもうやめておきなよ」

「うん。じゃあ最後にもう一回だけ」



私はひとつ深呼吸をして
ゆっくりと弓を構える。


重心は真っ直ぐ…

力み過ぎて肩が上がらないように…


今度こそ……当たれ!!




手を離れた矢は、真っ直ぐに的へ向かう。

中心とはいかないけれど
ギリギリ的の端っこに突き刺さっていた。


「家康っ見て!当たったよ!」

「良かったね」


家康を振り返ると
素っ気ない言い方とは裏腹に
何処か安心したように微笑んでいた。


…家康って、こんな風に笑うんだっけ。



「ジロジロ見るのやめてくれる」

「え?あ、ごめん」

ふいとそっぽを向いた家康は
少しだけ、頬が紅潮しているように見えた。



ふふっ…照れてるのかな。



「おや迦羅様、上達されましたね。
 さ、お茶でもどうぞ」












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