第2章 白と黒、灰と雨/中編(織田信長)
「疲れた者は無理をするな!
動ける者だけ着いて来い!」
本能寺までの道のりは遠く
ひた走る馬も人も疲労が押し寄せる。
迦羅の為ならばと多くの兵が着いて来たが
それも今やどれ程残っているかわからぬ。
休みを取りながら進軍を続け
更けた夜が明け、そしてまた日暮れが迫っていた。
ようやく辿り着いた本能寺へ続く山道。
馬の地を蹴る音が辺りに響き渡った。
ヒュッ——
不意に両の竹林から放たれる矢。
現れた僧兵が前方を塞ぐ。
「貴様等に構っている暇は無い」
抜き放った白刃で風を切る矢を弾き
立ち向かって来る僧兵共を斬り伏せる。
誰かを守る為の刃は
微塵の迷いも無く華麗に舞った。
四方から来る僧兵を薙ぎ倒しながら駆け抜け
間も無く本能寺の正面を捉えようとしている。
灯された松明と、格子から漏れる明かり。
今にも降り出しそうな灰色の空と
薄闇に呑まれ始めた景色に、ぼんやりと
まるで妖城のように浮かんでいた。
「…ここは俺たちに任せて下さい」
「御館様は早く迦羅を」
「ああ、頼んだぞ。
急ぎ迦羅を探し出せ!」
正面の敵を秀吉と家康に預け
俺は一番大切な者を探しに駆け出した。