第1章 白と黒、灰と雨/前編(織田信長)
「の、信長様…」
何度こうされても頬が熱くなる。
まるで初めて触れ合うみたいに。
何をされるのか
何をして欲しいのか
そんな期待をも、込めているかのように。
「んん…っ」
触れるだけの口づけから始まって
やがてそれはどんどん深くなっていく。
頭がくらくらして
全身の力が抜けていく…
口唇を繋いだまま、信長様が盃を置き
私の手から徳利を取り上げる。
信長様は自由になったもう片方の手で
更に腰を押さえつけた。
二人の口唇も身体も
より一層密着していく。
いつもより強く求められるような気がして
鳴り響く心臓の音が
外にまで漏れ聞こえるようだった。
「んはぁ…っあ…」
ようやく口唇が解放されて目を開けると
すぐそこに、熱っぽい信長様の綺麗な目。
しばらく見つめ合ったけれど
熱を持った頬が照れくさくて
目を逸らしてしまった。
すると信長様は
私をすっぽりと腕の中へ閉じ込めて
ひとつ、息を吐く。
あ……
「信長様も、私と同じですね」
逞しい胸から伝わる鼓動が
私と同じように強く、速く鳴っている。
それが何だかとても嬉しくて
ぴったりとその胸に寄り添った。
「こうなるのは、貴様の前でだけだ」
「ふふっ、嬉しいです」
いつもなら口づけだけで終わるなんて…って
そんな風に思ってしまうのに
今はそうじゃない。
ずっと……
こんな時が続けばいいのに———。
「今この時が、永遠であれば良いな」
「えっ?」
まるで私の心の中が伝わったみたいに
信長様がぽつりと呟く。
顔を上げると、信長様は遠くに視線を投げ
儚いものでも見るように
安土に浮かぶ月を眺めた。
…信長様?
「きっと、こんな日がこれからも続きますよ」
「ああ。そうだな」
また、戦になりそうだって言う噂は聞いてる。
慣れるものでもないし、不安にもなるけれど
これまでも乗り越えて来たもの。
私たちなら大丈夫。
何があっても、きっと。
「私より月のほうがいいんですか?」
ようやくこっちに顔を向けた信長様は
私につられて微笑んだ。
信長様が私に笑えと言うように
私も、信長様には笑っていて欲しいんです。
そんな願いと共に着物の胸元をきゅっと掴むと
また、愛しい人の口づけが降って来た。