第2章 白と黒、灰と雨/中編(織田信長)
予想していた渓谷にて
東国の連合軍との戦を繰り広げていた織田軍。
茜に染まる西の空に陽が沈み始めた。
ふたつ山に囲まれたこの地で
やはり挟撃仕掛けて来た連合軍だったが
対等な兵力と有能武人な将を抱えた織田を前に
崩れた陣形が立て直されることは無かった。
織田軍の反撃にまんまと掛かり
見事に挟撃を返された連合軍。
織田の前軍後軍に身を挟まれ
最早最後の抵抗とばかりに足掻くのみ。
「おのれ信長!!」
「何をほだされたか
折角の同盟が無駄だったようだな」
「くっっ……」
敗北が目に見えた戦に自棄になったか
敵の大将は単身で本陣を目掛け、捕らえられた。
「降るのならば、命までは取らぬ」
「ふざけたことを…っ!えぇい‼︎さっさと斬れ!」
「なる程、利口ではないようだな。
最後に聞く。この戦、誰の差し金だ」
「…口を噤んだ所で何の意味もない。
あの男は、明智光秀の手下だ」
「やはりな。もう良い、連れて行け」
「如何様になさいますか」
「こちらに降ると言うまで相手をしてやれ」
「な、何ぃ!?」
「はっ!!」
見渡す地面に転がる亡骸と
散れ散れに撤退して行く敵兵を眺めながら
俺はもう一つのことを考えていた。
——光秀は何をしている。
未だ顕如が現れる様子もないまま
この戦は既に織田の勝利であった。
顕如め…ここへ来て怖気づいた訳ではあるまい。
光秀が偽の情報を掴んで来たとも思えぬ。
「呆気ないですね」
「おいおい、あの坊主はどうした?」
「御館様」
戻って来た政宗と家康、秀吉は皆
同じ疑問を持っていた。
そこへ伝令兵が息を切らして駆け寄って来る。
「御館様っ!!」
「なんだ」
「光秀様より急ぎ文を預かっております!」
「光秀?」
流暢に綴られた文に目を通せば
顕如が如何なる手を使ってこの首を狙っているか
その詳細が記されていた。
潜伏していた山中から、西へ向かったと。
…なるほど
復讐の泥沼に嵌ったあの男らしい。
読み終えた文は無意識のうちに握り潰されていた。