第1章 白と黒、灰と雨/前編(織田信長)
明け方、ようやく眠りについた迦羅の傍で
昨夜の軍議で出た話を思い返していた。
近頃は大きな戦こそ起きてはいないが
あちこちの地で小競り合いが絶えん。
肥沃な土地を持つ国であれば
それなりに豊かな暮らしを送ってもいるが
そうでない国は未だ
食うに困る生活を強いられている。
たとえ豊かな国であっても
己の腹を満たすことしか頭にない
私欲を肥やす大名など後を絶たぬ。
そうした背景が妬みや恨みを生み
土地の奪い合いにも繋がっている。
世を良くしようと働いたところで
次から次へと問題は湧き上がって来る。
しかしそれは、天下統一を掲げる己も同じこと。
己の大義の為だとは言え
側から見れば
姑息な大名共と然程変わらぬのだろう。
皆が平等に暮らす平和な世、か——
いつになったら見せてやれるのだろうな。
たとえこの先どれ程の年月がかかろうと
己の大望を成すことに変わりはない。
「貴様とただこうして居られれば
どれ程幸せなのだろうな」
…誰かの生温さが移ったな。
愛するものを腕に抱き
何を案ずる事もない寝顔を眺めている今が
この乱世に生まれた俺にとって
どれ程に幸福であると感じることが出来るか
貴様は、理解しているだろうか。
「ん……」
胸にもたれかかる頭をそっと撫で
このひと時に堕ちて行くように目を閉じた。