第2章 白と黒、灰と雨/中編(織田信長)
安土を出て暫くが経った。
長閑な風景の中をゆっくりと進軍する。
いつだったか迦羅が言っていたな。
(思ったよりゆっくりなんですね)
歩兵部隊に負担をかけぬようにと
教えてやった覚えがある。
ふ、随分と懐かしい話だ。
次第に昇っていく穏やかな陽の中を
織田軍は進んで行った。
「御館様」
「何だ」
隣へ馬を合わせた秀吉が声を掛ける。
「今回も光秀の奴は
一人で何かやろうとしているんでしょうか」
「気に入らんか」
「いえ、今更そんなことを言うつもりはありません」
「では何を案じている」
秀吉がその問いに答えるまで
暫しの間があった。
「…あいつがいつか
勝手気ままにやっている危険な任務の裏で
命を落とすようなことがないかと…」
光秀は表立った任務よりも
密かに動く影のような任務が多い。
俺が命じることもあれば
自らの責務だとばかりに闇に飛び込む。
あれは周りを良く知り、己を知り
その上で敢えてそうしている。
余計なことを口には出さず
しかもあの性格故だろう
問題視されることが多々あるのも事実だ。
秀吉のような半ば病気かと思うほど
面倒見の良い心配症な男には
少々理解し難いのかも知れぬな。
「あの男は殺しても死なん」
「まぁ、そうでしょうね…」
いつも互いに啀み合いながらも
結局のところ、秀吉と光秀は上手くやっている。
そうでなければ俺が困るがな。
…光秀、貴様にも任せたぞ。