第2章 白と黒、灰と雨/中編(織田信長)
——二日後、早朝。
空が白んで来た頃
隊列を組んだ織田軍はこれから東へと向かう。
早朝にも関わらず
城門には溢れる程の見送りが集まった。
「これより東へ進軍する」
艶やかな黒馬に跨る信長様は
兵たちに凛とした声を上げる。
「貴様等には勝利をくれてやる。
誰一人無駄死にすることは許さん。
生きて此処へ帰れ」
「おおおおおぉぉ!!」
一丸となった織田軍の皆は
その顔が生き生きとさえしている。
「迦羅」
「あ、秀吉さん!」
「お前、大丈夫なのか?」
「え?」
馬上から私を見下ろす秀吉さんは
堪らなく心配そうな顔をしていた。
「おい、迦羅。
お前が行かないなんて言うから
秀吉はこの通り気が気じゃないらしい」
「政宗…余計なことを」
あ、そう言うことだったんだ。
「私が行くって言えば
それはそれで心配するのに。
ふふふ、秀吉さんも可笑しな人」
「こら、そこで笑うんじゃない」
「私なら大丈夫だよ。
信長様のことも皆のことも
私は、信じてるから」
「…ん、そうか」
理解したように微笑んだ秀吉さんの元を離れ
私は愛しい人のほうへ駆け寄った。
「信長様っ、どうかお気を付けて」
「ああ、すぐに帰る。待っていろ」
「はい!」
伸ばされた手は頬を撫で
ひと時の別れを惜しんでいる。
信長様が出立の声を上げて
整った人の波がゆっくりと動き出す。
織田軍の長い隊列が見えなくなるまで
私はその無事を祈った。