第2章 白と黒、灰と雨/中編(織田信長)
「ついに東の二国が動いた。
我が軍も明後日、進軍を開始する」
上座の脇息に片肘をつき
鉄扇に顎を乗せた信長が告げる。
武将と各部隊の長となる者たちが広間に会し
出立を控えて最終の軍議を開いていた。
「恐らくは予想通り
あの渓谷にてかち合うことになるでしょう」
「挟撃か」
「ええ、十中八九」
「で、どうする?」
「我が軍を二分します。
前軍が敵の挟撃に応じている間に
更に後軍を背後に回り込ませます」
「挟撃を更に挟撃か。
てことは前軍の陣形誘導が重要なわけか」
「流石ですね政宗様。
前軍が如何に有効な陣形を取るかで
こちらの攻撃が有利になりますから」
三成が策を皆へと説明していると
一足遅れた光秀がゆらりと現れた。
「御館様、ただいま戻りました」
「遅いぞ」
「申し訳ありません」
ゆったりとした足取りで現れ
所定の場所へ腰を下ろした光秀に
鋭い眼光を向けているのは秀吉。
だが恨み言を言うでもなく
ぐっと膝上の拳を握り締める。
「三成、軍は三分する」
「…三分、ですか?」
先日の話では無かった信長の言葉に
三成は目を丸くした。
「前軍、後軍そして
残りは光秀の下で別部隊の任務を命ずる」
「御館様!光秀に別部隊などと…っ!!」
此処で堪らず声を上げたの秀吉であったが
それを気にすることもなく
光秀が新たな情報を口にし始めた。
「御館様、第三の勢力とやらの正体が」
「ほう、それは?」
「本願寺元僧侶、顕如の一派です」
「成る程、奴か」
「またあの生臭坊主が出てくんのか??」
「…懲りない人なんですね」
顕如とは一度、二度と戦を交えている。
未だに信長への復讐に命を懸けているのだ。
「顕如はまだ僧兵共を動かしておりません。
頃合いを見計らい現れるものかと」
「終盤か。互いの兵が削がれ
疲弊した所にのこのこやって来る算段か」
「しかしあの坊主のこと。
裏で何か仕掛けてくる可能性も捨て切れません」
「貴様の部隊は好きに使うがいい。
だが、必ずやその謀略を見極めろ」
「御意」