第1章 白と黒、灰と雨/前編(織田信長)
——暫く経った日の夕暮れ
敵国の動向について報せを受けた織田軍は
皆一堂に会していた。
「いよいよか」
「こちらも準備は出来ております」
「今回の戦、どう見る。三成」
「そうですね…」
広げた地図を見つめた三成は
指先で安土からの進路を辿り
そして敵国からの進路を辿り
とある場所で動きを止めた。
「恐らくこの辺りかと。
向こうがこの地形を活かすのであれば
挟撃が最適かと思われます」
「この地形を利用しない手はないな」
「挟撃を仕掛けてくるとして
こちらがそれにどう策を練るか
向こうも考えているはずです」
「裏をかいてくるわけだな」
「ええ。ですが…
この辺りは数ヶ月前の大雨の折
大規模な土砂崩れが起きています」
「ああ、そうだったな」
「道の整備は済んでいますが
再度の崩落防止の為に一部山を切り崩し
だいぶ地形が変化しています」
「…敵がそれを把握してないければ——」
それから皆で地図を睨みながら
三成の出す策案に耳を傾け
また各々が策を出し合い
あらゆる可能性を思案していった。
そうして気付けば二刻程が過ぎた頃。
「そう言えばしばらく光秀の姿が見えないな」
不満そうに顔を歪めた秀吉は
複雑な声を出す。
「…また何か一人で探ってるんじゃないですか」
「姿が見えねーなんて、常だろ」
「あいつ、勝手な行動は慎めと何度言わせる!」
怒りを露わにした秀吉の気持ちもわかる。
奴の単独行動は今に始まったことではない。
「構うな。好きにさせておけ」
「しかし御館様!」
「あれで役に立つ男だ」
「……はい」
何処で何をしていようと
奴の行動の裏には益がある。
あれは腹の内が読めぬが
信頼するにあたる男だ。
「奴に構う必要は無い。
貴様は目の前のことを考えろ」
「はっ」