第1章 白と黒、灰と雨/前編(織田信長)
「いつまで呆けているつもりだ。
折角の茶が冷めるぞ」
「あ、そうですね。頂きます!」
考えてばかりじゃ駄目だよね。
今は信長様とのデートを楽しまなくちゃ。
見た目も綺麗な菓子を一口食べると
ほんのりとした上品な甘さが広がる。
「わ…美味しい」
「気に入ったようだな」
「はい!すごく美味しいですよ。
信長様も食べてみて下さい!」
「ほう、そんなに美味か」
お皿に乗った菓子を差し出したのに
信長様は手を出そうとしない。
…こういう甘い物は好きじゃないのかな?
首を傾げていると
「そっちを寄越せ」
「え?」
そう言って私の手首を掴んで引き寄せ
食べかけの菓子をパクリと頬張った。
「なるほど、なかなか悪くないな」
「…ど、どうしてそっちを食べるんですか!」
「いつか貴様が言っていただろう。
好き合う者同士が一つの物を分け合うと
幸せな気持ちになると」
とても満足そうに笑う信長様に
小さく胸が疼いたけれど
恥ずかしいような、照れくさいような気がして
じんわりと頬が熱を持っていった。
まぁ確かに、言ったような気がする。
あれは信長様と恋仲になってすぐの頃かな
そんな話をした記憶があった。
「そんなこと、覚えていたんですね」
「貴様が教えたのだから当然だ」
「ちょっと嬉しいです…。ふふ」
そして信長様は皿からもう一つをつまみ
私の前に差し出した。
「ほら、食べろ」
この流れから察するに
これはきっと、半分こだ。
「え、ちょっと…恥ずかしいですよ」
「恥ずかしいことなど
他に山ほどしているだろう」
「何言ってるんですかっ…!」
「早くしろ」
「………」
信長様、なんだかすごく楽しそう。
小さなことで嬉しいとか楽しいとか
そんな風に感じるのは私だけだと思ってた。
でも…それが違っていたことが
すごく嬉しい。
だから恥ずかしさを掻き消して
もう一度、小さなお菓子を分け合った。
「ご馳走様でした」
「そろそろ帰るか」
「そうですね。きっと今頃
秀吉さんあたりがやきもきしてますよ」
「ふん、構わん」