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イケメン戦国 ✿••┈恋綴る月絵巻┈••✿

第1章 白と黒、灰と雨/前編(織田信長)





———丑の刻も過ぎた頃
薄靄のかかる安土城下。


静まりかえるその闇に身を隠すように
足音を消して歩く一人の男が居る。





「何をコソコソと動き回っている」

「——っっ!?」


川端の柳の木に寄り掛かり
通りがかるであろう男を待っていた。
やはり、俺の勘は的中したか。

時折吹く生温い風に押しやられた雲が
覆っていた月の姿を現す。




「…光秀様」

「待った甲斐があった。
 まさか散歩などと言う訳ではないだろう」

「光秀様こそ、このような刻限に
 一体どうされたのです?」

「いや何、良からぬ予感がしてな」

「………」

「何処へ行っていた?」

「女の元へ通っていたのです」


クッ…なるほど。
この俺に見え透いた嘘を吐くか。
まあそれもいい。


「身の丈を知らぬ謀は己を滅ぼすぞ」

「さあ、私には何のことやらわかりかねます」



浅く会釈をしたその男は
まだ薄靄のかかった道の向こうへと
静かに消えていった。






あの様子、間違いはないだろう。

俺の真似事など百年早いと言うのに。
お前は一体何を企んでいる?


この俺すらも欺こうとは
随分と甘く見られたものだ。


「忠告はしたからな。…久野」







確信は得たが確証が無い。

これでまた
動かねばならん理由が出来たか…。


未だこの世には
安息と言うものがやって来る日は遠いようだ。




暫くその身を柳の木に預けたまま
雲間に覗く淡い月と
濃紺に染まる天を仰ぎ見ていた。








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