第1章 堕ちた先は快楽地獄【両面宿儺 虎杖悠仁】
「なんで、悠仁の身体が……?」
なぜ、悠仁の身体を操っているのか、ここはどこなのか。
聞きたいこともたくさんあったのに、身体は硬着して思うように動かないし、言葉を発するのも恐怖でままならない。
美代は、せめてもの抵抗として男をキッと睨みつけるのが精一杯だった。すると、彼はゆるりと口角を上げ、身に纏う着物を靡かせてぽちゃん、と音を立てて地に足を付いた。
"ソレ"はゆっくりと近寄りながらも、傲然と顎を上げてこちらを見下ろしている。圧倒的な存在感と凄味の孕んだ獣的な眼光に射抜かれて、言葉も出ずにその場で震えることしか出来なかった。
「口には気をつけろ。お前も早死にはしたくなかろう」
気づけば、その細首は男によって力強く掴み上げられていた。そのままぐっと目線を合わせられるように上向かせられると、目が合う。そこには赤々と燃ゆる鋭い深紅の瞳が浮かんでおり、不思議とそれが血の色にも見えてきて恐怖に呼吸も支配される。
「か、は……っ、ぁ!」
仕置きでも与えるように一層強く気道を絞められ、美代が苦痛を訴えるように顔を歪めると、男は無邪気に笑い、更に空気を奪うように力を込めた。
ぎりぎりと長く鋭い爪先が首に食い込み、血が滲む。次第に脳内は何も考えられなくなり、今にも酸欠に死んでしまいそうになる。
「発言を許可した覚えはない。いいか?俺がよしと言うまで口を開くな」
愛しい人と同じ顔をしたその人に首を絞められ命を落とすなど、これ以上の地獄を知らない。言われた通りに口を閉じて目力だけで抵抗を示せば、男が笑った。