第10章 *File.10*(R18)
「分かったから、雪乃が頭下げなくていいって。俺もハナからそのつもりだしよ」
「…有難う」
「相手が相当ヤバいヤツらってことは、俺も知ってる」
顔を上げた雪乃の表情が安堵したものに変わって、俺の方がホッとした。
不思議な人間だと感じた印象は、初対面の時と変わんねえな。
雪乃は無条件で人を魅きつける何かを持ってんだろう。
それでいて、聡明だ。
普段は歳不相応な幼い面ばかり見せるのに、不意打ちで歳相応な態度を取る。
なのに、相手に驚きを感じさせても、不愉快さなんか与えない。
それは計算高いものではなく、彼女の中で自然に切り替えられるから?
「そうね。私が事の結末を知っていたら、良かったのに」
「…知らねえ方がいい」
「何で?」
ストローを加えたまま、首を傾げる。
「知ってたら、それこそ周りの人間が大変だろ」
「ん?」
「どうせ一人で突っ走って、無茶をしでかすに決まってるからな」
「ムッ」
「自覚はあんのか」
「ムムッ」
「もしかしなくても、既に無茶をしでかして怒られた後?」
「ふーんだ」
「くくくっ」
これは図星。
今までに一体どんな無茶をしでかしたのか、あの彼氏に一度聞いてみたいモンだ。
不貞腐れた表情をして、窓の外にプイと顔を背けた雪乃を眺めながら、俺は諸伏景光の顔を思い出していた。