第10章 *File.10*(R18)
「…悪ぃ」
この為に長い間、二人は離れている。
出来る限り安全な場所に置いて、あらゆる方向から雪乃を護り抜くためだけに。
雪乃自身も、それを十分に理解出来ているってことか。
「気遣ってくれて、ありがとね」
ゆるゆると首を振る雪乃の瞳がとても淋しげで、思わず手を伸ばして、髪を撫でた。
「強いな、雪乃は」
「精一杯、そう見せてるだけ。でも、話を聞いて分かってくれる人がいると安心する」
「…言えるワケねえよな」
事情を知る、あの4人以外には誰も。
「私には恋人はいないのよ。この戦いが終焉するまで、はね」
どっちにしろ、公安の捜査官。
周りにも説明しにくい立場だ。
「それでも?」
「そうね」
返答に迷うことなく、ハッキリと大きく頷いた。
初めて見る、歳相応の笑顔で。
幸せの裏側には、恋人に逢えない、ただ何も出来ずに待っているだけの淋しさとか辛さだとか、みんなが無事に帰って来ることを一人祈っている孤独感、哀しさが垣間見える。
「ダメよ」
「なにが?」
「私の感情を読んでしまったら、快斗まで辛くなる」
「…雪乃の彼氏は大変だな」
不意に真剣な表情を見せたから、驚いた。
きっと、無自覚だ。
鋭いのか、鈍いのか?
「…なんで?」
「感情の年齢幅が広いじゃん」
「あー、似たようなことを、出逢った頃に言われたことがあるかも」
「なんて?」
「お前は何重人格なんだって、陣平に」
松田陣平。
警視庁刑事部捜査一課の、グラサンの男前か。
「雪乃って、モテるだろ?」
「ンなワケねえし」
「くっくく」
あの彼氏が聞いたら、盛大なため息を洩らすな、絶対に。
「何で笑うの?」
「やっぱり面白えよ」
「何処が?」
「くくくっ」
オマケに天然。
これは想像以上だ。
ここまで来たら、あの彼氏が不憫に思えて仕方ねえ。
「ねえ、快斗」
「ん?」
声に真剣さが混じる。
俺に真っ直ぐに向ける、その目の色と共に。
「もし、あの子から連絡があったら、協力してあげて欲しいの。どうか宜しくお願いします」
『あの子』とは、メガネのクソ生意気な探偵ボウズ。
自分は彼らに何もしてあげられないから、だろ?