第9章 *File.9*(R18)
「…離して。これ以上、此処にはいられない」
感情を抑え切れずに、オレを傷つけてしまうから、だろう?
「それはダメ」
「どう、して?」
「一人で泣かせられない」
溢れる涙で濡れた頬を、指先で拭う。
このまま一人にしたらどうなるかなんて、目に見えてるから。
今が真夜中でも、この家から出て行くつもりだろう?
「泣かない」
「もう泣いてる」
「泣いてない!」
「出て行くのは、絶対にダメ」
「そればっかり!」
「他に言い様がないからね。それに…」
「……」
「もし雪乃を喪っていたら、って考えたら、恐くて仕方がなかった」
この心が凍てつくほどに。
もう、他の何も考えられなくなるほどに。
頭の中で負の連鎖が止まらなくて、夜も眠れぬほどに。
「……」
自分が死ぬよりも、ずっと。
オレにとって、雪乃の生命が何よりも大切なんだと思い知らされた。
「私だって……」
「ん?」
「自分より景光が大切なの。例え、私自身がまた死んでしまっても…貴方がこの世界で生きている。それが私の一番の願いであって、一番の幸せだから」
一度は助けられた生命でも、この先何時本当の最期を迎えるかなんて、それこそ誰にも分かるはずもない。
喪いかけた生命が直ぐ傍にあるからこそ、改めて気付かされた想い、生命の尊さ、儚さ、大切さ。
きっとそれは身を持って経験した松田も班長も、傍で見て話を聞いたゼロも同じことを考え、思っている。
「雪乃の気持ちはとても嬉しい。だけど、キミがこの世界からいなくなってしまったら、オレはもう生きてはいけないよ」
キミがいない日常なんか想像したくもないし、想像なんか出来るわけがない。
例え逢えなくても、この世界でキミが生きているのと、キミの存在自体を喪ってしまうとのでは、意味が全く違う。
「景光…」
「だから、オレと雪乃は相思相愛ってこと」
「うん?」
「松田を、オレを、班長を助けてくれたことには、感謝してもしきれない。だけど、これからは雪乃自身の生命を、何よりも大切にして。キミのために。そして、オレのために」
「景光の、ため?」
「オレの幸せは、オレの傍で雪乃、キミが何時も笑ってること。だから約束して。今、此処で」