第8章 *File.8*
「一体、何処まで考えて…」
その万が一の時の為に、自分の身の回りの全て終わらせてまで、班長を?
自分の死後を知っているからこそ、良くも悪くも遺された周りの人間が何をしなければならないのか、その目で見て知っていた、から。
「…読んだ、のか?」
「まさか。開封せずに、そのまま本人に返した。ただ、何の躊躇いも無く班長に向かって雪乃が飛び出して行った、あの瞬間だけは、さすがの俺も肝が冷えたぜ」
「「……」」
安易に想像が出来る。
「松田、君の時もそうだったよ。怯えることも躊躇うこともなく、ただ一目散に突っ走って行って、あの観覧車に飛び乗った。雪乃にとって、オレが後から観覧車に飛び乗ったのだけは、想定外だっただろうね」
「…で、結局」
「三人とも助けちまった」
「一度たりとも、自分の生命を省みずに…」
もし誰かの生命と引き換えに、雪乃が生命を喪っていたら?
オレはきっと…。
「悪ぃな。雪乃を止められなかった」
「その前に、雪乃はお前の言うことを素直にきくような、か弱いオンナじゃないだろ?」
「「確かに…」」
ふっと笑ったゼロの言葉は、否定出来ない。
オレと松田は納得して頷く。
「本当に愛されてるよ、景光は」
「…幸せになんか、なれるわけがない」
「雪乃の願いは叶ったとしても、もし雪乃を喪っていたら、か」
「…ああ」
「お前より、雪乃の方がよっぽど逞しい」
「全くだ」
とてもじゃないが、あの時はここまでは考えられなかった。
あの言葉にこんなにも深い意味が、それ以上にこんなにもオレ達に対する深い愛情が、想いが隠されていたなんて。
「全面的に負けを認めるよ」
「ゼロ、お前が?」
「…生まれて初めて、かもな」
誰かに対してこんなにもゼロが素直に負けを認めるなんて、確かに一度も聞いたことがない。
「だからって、雪乃はあげないよ?ゼロ」
「それは認めない」
「!」
フンと鼻で笑われた!
「ついでに俺も参戦すっから、宜しく」
「絶対に宜しくなんかしないから、松田」
片手を挙げながらニヤリと笑った松田を、オレは本気で睨み付けた。