第7章 *File.7*
「寝るか?フツー」
体重を全て俺に預けて、完全に寝てやがる。
それも、出逢って10分足らずの男の腕の中で。
明らかに年上なのに、無防備にも程があるだろ。
ベランダにちょこんと置かれた、一本の缶チューハイの空き缶。
飲み慣れねーのに飲んだ、のか?
だから、本音がポロポロ零れた。
これ本人に言っとかねーと、かなりヤバいんじゃねーの?
話の内容が内容なだけに。
彼女から吐き出される愚痴にも似た彼女自身の身の上話には、何故かウソが一つもないと信じられた。
でないと、初対面で俺の正体を知っているはずがねえし、他に当てはまる理由がない。
こんな不思議な女は初めてだ。
「ん?」
どっから?
警察関係者の彼氏、またはその友人とやらか?
一瞬殺気にも似た鋭い視線を感じて、チラリと場所を確認するが既に姿形、気配がない。
警察の潜入捜査官ってことは、公安関係者?
かなりのやり手、だな。
「仕方ねーな」
横抱きにするとカラリと窓を開けて、ベッドに寝かせる。
「今宵はタイムリミットのようなので、お暇します」
暢気にすやすやと眠る彼女に告げて、サイドテーブルにメッセージを残すと、ベランダから立ち去った。
するとまもなく、彼女の部屋の玄関が静かに開けられて閉じられる小さな音を微かに聞いた。