第6章 *File.6*あれから約二年半後*
「ひ、ろっ」
車に乗り込むなり、雪乃の肩をシートに押し付けて唇を重ねた。
分かってる。
こんなことをしても、何にもならないってこと。
それでももし、あの二人が本気で仕掛けて来たら?
「どう、したの?」
長い口付けの後、潤んだ瞳で濡れた唇が訊ねる。
「雪乃は…」
「うん?」
「松田とゼロは好き?」
「へっ?」
「ふっ」
余りにも目を点にするものだから、思わず吹き出した。
そんなに想定外の質問だった、のか?
「親友だと、勝手に思ってる?」
「……」
だよね。
雪乃は鈍いから。
さっきの話だって、きっと意味が分かってない。
「もし……」
「もし?」
「松田が本気で雪乃を好きだ、と言ったら?」
「万が一、そういうことがあったとしたら……」
ゆっくりと乗り出した身体を戻して、運転席に座り直す。
「としたら?」
「嬉しいよ。景光だって、親友だと思ってる可愛い女の子に告白されたら、嬉しいでしょ?」
「うーん」
確かに松田は男前だ。
「その人と、自分が想ってる人が別人だとしても、ね。人間、人に嫌われるより好かれる方が嬉しいものだし。でももし、陣平に本気で告白されたら…」
「……」
「断るよ。私の運命の人は、景光しかいないから」
オレを見つめる視線に、真剣さが宿る。
それでもオレの不安はなくならないから、胸の奥に隠しておくよ。
雪乃は優しいから。
あの二人に本気で攻められたら受け入れてしまうんじゃないかって言う気持ちが、心の何処かにあって消えたことはない。
「ゼロが相手でも?」
「ない、かな?ゼロはね、手のかかる妹みたいに思ってるっぽい。ってかさ、陣平と付き合ったら、人生に安泰はないだろうなー。ゼロはゼロで、色んな意味で大変そう。八方美人で異常にモテるし、すぐ一人で突っ走るし、完璧主義だし」
「否定は出来ないな。じゃあ、オレは?」
「えっ?そ、それは…」
「そういうトコが凄く可愛いのに」
ほら。
顔を真っ赤にさせて、恥ずかしがってる。
だから、松田もゼロも放っておけないんだよ、キミのこと。