第6章 *File.6*あれから約二年半後*
「私がゼロと接触したら、景光に連絡が行くようになってたの?」
「状況によりけり、かな。何時か、その可能性はあるとは思ってたよ」
「そっか。でも少しスッキリした」
「やっと泣けた、から?」
「うん。景光に、ただ逢いたくて。声が聞きたくて。抱き締めて欲しくて。温もりを感じたくて。貴方にただ、傍で触れていたいとずっと思ってたの」
「もう、分かったから」
揺らぐことなく真っ直ぐにオレを見つめていた瞳から、大粒の涙が溢れ出して、堪らなくなって華奢な身体を抱き締めた。
「…ごめん、なさい」
「雪乃は謝らなくていい」
此処で、一度壊してしまおうか?
無になれるように。
リセット出来るように。
破裂寸前まで膨らんだ、大きなゴム風船に針を刺すように。
積み重なった不安と不満と欲望全てを、一度に解(と)き放つように。
絡み合った様々な感情を、一つ一つ解(ほど)いて行く様に。
日々溜め込んでいたのは雪乃、キミだけじゃない。
オレの中で溜め込んでいた想いも、今溢れ出す想いも、全て伝わるように。
「とても不謹慎だけど…」
「……」
「嬉しくて、どうかなってしまいそうだよ」
「?」
耳元で囁いてから、雪乃の顔を覗き込む。
「オレは雪乃に愛されてる。あの日からずっと」
この家で二人で過ごした時間は決して長いものではなかったけれど、出逢った二人の想いは本物だった。
逢えなくても離れていても、変わるものは何一つとして無かったから。
「疑ってた?」
「それは一度もない。愛の濃さの問題」
「景光…」
ふと、雪乃の眉がキュッと寄って、難しい表情になった。
「うん?」
「濃さって、オヤジ臭い」
「えっ?!」
まさかのそっち?!
オレはソファに腰を掛けたまま、深く項垂れた。
「景光、ごめんってば」
「……」
これがさっき言ってた、毒吐く雪乃?
いやもう、色んな意味で破壊力が凄い。
久々にグサッと胸に突き刺さったよ、鋭い言葉の刃が。
ある意味、逞しくなってくれて喜ぶべきポイントなんだろう、けど。
「まだ、許してくれないの?」
「どうしよう、かな?」
「!」