第6章 *File.6*あれから約二年半後*
元いた世界の経験も活かして、今はスーパーのレジのお姉さん?おばさん?の一人だ。
常に募集がある部門でもあるし、事務は向いてないから、新居から近くのスーパーをいくつか周り、今の店舗に決めた。
フルタイム勤務のパートだ。
社員になると、色々面倒が付き纏う。
転勤やら、仕事上の責任やら。
立場が立場だから、必要以上に人に関わりたくないのが、最大の理由かもしれない。
ボーナス、は、大きいけど、ねー。
「今度見に行くよ」
「来なくていい!」
即拒否だ。
「何故?」
不満そうな顔をしてもダメ!
「緊張して仕事になんない。私、彼氏いない設定にしてるもん。景光が来たら、態度に出て即バレる」
「じゃあ、バレてもよくなったら、見に行くよ」
「それまで辞めずに頑張る」
「えっ?実は辞めたいほど、辛い職場?」
「従業員はみんないい人だから、大丈夫。何かあったら分かり合える、相談も出来る、毒吐いても聞いてくれる人もいるから」
「毒、吐くの?雪乃が?」
「ふふふ。ちょっと逞しくなった、かも?」
ちょっと驚いた景光の表情が可愛い。
「聞いてみたいような、怖いような」
「景光にはナイショ!あ、盗聴器はナシだからね」
「それは残念」
「ふふっ。でも景光の運転って、新鮮」
「どう?」
「最高です」
運転中なのに、今直ぐに横からぎゅっと抱きつきたくなるぐらいには、かっこいいですよ?
「それはよかった」
長い長い空白の時間なんてまるでなかったように、穏やかでいて日常的な会話が出来るこの狭い車内はとても居心地が良くて、心から安心出来た。