第6章 *File.6*あれから約二年半後*
おや?
雪乃がたまに言う、ブラックモードのスイッチには敏感だ。
あまえるようにオレに触れている指先が、ピクリと僅かに震える。
「じゃあ」
「じゃあ?」
「今から抱いていい?」
「はぅ?」
ニッコリ笑うと、頬が一気に真っ赤に染まった。
「勿論、これが目的だったわけじゃない。でも、お互いのためかな?これ以上、想いを溜め込まないためにも全部吐き出してしまおうか。オレは雪乃の気持ちを全部受け止めたい。だから、雪乃はオレの気持ちを全部受け止めて欲しい」
偶然とは言え、今日逢えてよかった。
もしこれ以上逢えない日が続いていたら、恐らく壊れてしまっていた。
何よりも大切な、雪乃の心が。
抑え切れずに、耐え切れずに、堪え切れずに。
「…景光、大好き!」
「おっと」
雪乃の言動は、何時もオレの予想を遥かに超えて来る。
ついさっきまで隣に座っていたのに、突然、勢い良く首にギュッと腕を伸ばして抱きつかれた。
可愛らしい満面の笑みとともに。
「景光は何時も私が欲しい答えをくれるの。もうそれはびっくりするぐらいのタイミングで」
「愛ゆえ、かな」
雪乃の身体を持ち上げて、自分の身体の上に乗せる。
「愛してる、景光」
「雪乃」
「なぁに?」
「愛してる」
「うん」
額を合わせて微笑み合う。
そして、心も身体もまるごと全てをさらけ出して、長く深く愛し合った。
「……もっ、と」
「!」
「景光が、欲しい」
「!!」
艶のある表情の中に見え隠れする、哀しみと切なさ。
真っ直ぐに向けられた瞳からは、オレへの溢れんばかりの愛情。
「……景光?」
「手加減は、しないよ」
ハナからするつもりなんて、一切なかったけど。
雪乃から求められるのが、言葉を失うほど嬉しいとは思わなかったよ。
オレ自身を包み込む、温かく柔らかい場所がギュッときつく縮こまる。
「うん。幸せ過ぎて、おかしくなりそう」
「オレも」
互いにふわりと微笑んで、唇を重ねた。
逢えなかった長い時間を今、この瞬間に取り戻すかのように。
抱えきれずに溢れ出した想いをぶつけ合い、その想いも全てまるごとそっと優しく受け止めるかのように。