第6章 *File.6*あれから約二年半後*
ほぉら、やっぱり!
「三名様ですか?」
「はい!」
清香が明るく答えた後だった。
彼と視線があったのは。
「雪乃?」
ゼロがハッとして息を飲んだ。
「…っ」
ダメ。
その声で呼ばないで。
短かったけど、とても楽しかった、あの時間を思い出すから。
無理矢理蓋をして、思い出さないようにしてるのに。
だから陣平にも班長にも、極力会わないようにしてるのに。三人の声もなるべく聞かないように、私からの連絡はLINEだけにしておいたのに!
「ごめん。やっぱ、帰る」
「梓さん、バックヤードを少しお借りしますね。すみませんが、後を宜しくお願いします。二名様です」
震える声を押し止め俯いたまま踵を返し掛けた私の手首を掴み、ゼロは強引にバックヤードへと連れて行った。
相変わらずの咄嗟の判断力と行動力には、驚かされる。
「ご、めん」
「俺が此処でアルバイトしてるの、知ってたんだろ?」
「ん」
だから、来るのを躊躇ったのに。
こうなるのが分かってたから、此処に近寄らないようにしてた、のに。
もう、涙が止まらない。
ずっと、我慢してたのに。
困らせるのが分かってたから。
ゼロは優しいから、私がこうなったら放ってはおけないじゃない。
「とりあえず、泣け」
「…ごめん」
「分かったから、もう謝るな。俺が泣かせてるみたたいだろ」
ゼロ、半分は正解よ?
ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、ゼロはふわりと包み込むように抱き締めてくれた。
それはまるで、愛しいヒトにするように。
景光の優しさと包容力を、真似るように。
「景光は無事だ」
「ん」
どれだけの時間が経ったのか、溢れた涙が止まる頃、耳元で囁かれた一言に心から安堵する。
一気に肩の力が抜けた。
あの組織の中で彼と行動を共にしているゼロの言葉だからこそ、何よりも信用出来る。
カチャ
不意に音を立てて、ドアが外側から開いた。
「?」
「遅い」
「無茶を言うなよ」
「ひ、ろ?」
聞き間違えるはずが無い。
その声を。
ハッとして、急いで振り返る。
「ごめん。今まで逢いに来れなくて」
「……」
この目に景光の姿をハッキリと映し出しただけで、止まったばかりの涙がまた次から次へと溢れ出す。