第6章 *File.6*あれから約二年半後*
「……」
う〜ん。
とうとう、この日が来てしまった!
『喫茶ポアロ』に行く。
この日が。
勿論、私から誘ったワケじゃない。
今の職場で働き始めて、二年半ほど。
年齢が近い仕事場の同僚二人とは、休みを合わせて一緒に出掛ける仲になった。
二人のうちの一人、ランチ場所を探す担当の美涼から今回提案されたのが、このポアロだったと言う話。
「雪乃って、サンドイッチ嫌いだっけ?」
「えっ?そうなの?」
「ううん。サンドイッチは好き!」
だけど、ね?
「楽しみよね、ポアロのハムサンド!」
「うん!」
そこは激しく賛同します!
だって、あのゼロが考案した、あのハムサンドよ?!
絶対食べたいに決まってる!
寧ろ、ずっと食べたかった!
「噂の超イケメンさんと会えるといいわね!」
「……」
私はよーく存じ上げておりますよ、その超イケメンの彼のことは。
故に、今日の私の最大の問題点はそこなのよ、そこ!
さっきから、嫌な予感しかしない。
いっつも電話一本の急用でさっさと帰るくせに、今日に限っているような気がする。
そして私の直感は、良く当たる。
「あれ?イケメン嫌い?」
「まさか!大好き!」
「だったら、よかった」
景光と別れてから、もう二年半近くになる。
そう、諸伏景光。
彼の場合、物語通りの展開にはならなかった、のだ。
本当なら一昨年あの場面を迎えるはずだったから、ゼロだけには連絡を入れて最低限の事情を話し、黒の組織内でそんな話がないか、詳しく探ってもらった。
でもだからこそ、違った形でNOCだとバレるかもしれないから「絶対に油断しないで。」と、景光に一言だけ連絡は入れた。
理由はきっと、ゼロが直接話してくれただろう。
私からの連絡は、それが最初で最後。
メールだから読んでくれたかどうかさえ、分からない。
それでも何度か近くに彼の存在を感じるのは、優しい彼なりの気遣い。
オレはちゃんと生きてるよ。という、証。
そして去年、陣平に協力してもらって、班長も無事助け出せた。
彼は陣平と共に、今は警視庁の刑事として頑張っている。ナタリーさんもご存命だ。
カラ~ン♪
「いらっしゃいませ」
店員の男性の、明るい声が響いた。