第1章 *File.1*
「はじめまして。望月雪乃と申します」
「「……」」
翌日の夜、身なりをきちんと整え、薄化粧をした彼女は無表情のまま頭を下げた。
一通りの化粧用品などは、景光が近くのコンビニなどで買い揃えて来たそうだ。
松田と共に、事前に景光から話は聞いてはいたけど、だ。
「俺はお前のことは認めない」
「承知しています」
キッパリと初対面で告げるも、彼女の表情は何一つ変わることない。
「全部調べたんだろ?」
「ああ。確かに住所は存在したが、全くの別人が住んでいた」
景光の監視の中、彼女が迷うことなくスラスラと書き示した住所を始め、出身の学校やら人間関係やら、出来る限りを調べ尽くした。
年齢から割り出した年数の、前後の年数までしっかりと。
だが、彼女の血縁関係者は存在しなかった。
そう、誰一人として。
日本中の何処にも。
「へえ」
景光から結果は既に聞いているからか、松田の反応にも無反応。
「で、何時まで此処にいるつもりだ?」
「私は目を覚ました時、諸伏さんに、私を殺すか、警察に連れて行って欲しいと頼みました」
「殺すっ?!」
さすがの松田もそこまでは思っていなかったのか、大きな声を上げて彼女を凝視した。
「いや、オレが拳銃を向けてしまったから」
「貴方は何も悪くありません。当然の対処をしただけです」
「「「……」」」
気まずそうに頭を搔く景光に、ハッキリと言い切った。
「貴方が降谷零さん、貴方は松田陣平さん。伊達航さん、萩原研二さん。諸伏さんの五人は警察学校の同期ですよね」
「「「……」」」
三人で視線を合わせた。
彼女はワザと煽っている?
真っ先に俺達から視線をそらした景光が、呆れたようにため息を洩らしたのが、何よりの証拠。
「俺達が二次元のキャラだって?」
「話の内容全ては覚えてはいませんが、登場人物なら大体は分かります。神奈川県警の萩原千速さんは萩原さんのお姉さん、長野県警の諸伏高明さんは諸伏さんのお兄さん。降谷さんの初恋は宮野明美さんのお母さんの女医エレーナさん、伊達さんの恋人はナタリーさん」
「その、初恋はやめてくれないか」
「くっ。くくくっ」
げんなりして言えば、景光が吹き出して笑った。