第2章 *File.2*
それに。
景光にとって私は、ある日突然押し掛けて来て、行く宛てがないからと図々しくも家にいて、衣食住全部お世話して、気を遣い、迷惑ばっかりかける、ただの厄介者だ。
「ん?」
ふと視線を感じて顔を上げれば、景光とゼロがジッと私を見ていたらしかった。
「どうか、したの?」
「それはこっちのセリフ」
「何を、隠してる?」
穏やか口調なのに、鋭い目付き。
二人共、公安警察の顔だ。
「A secret makes a woman woman」
「「!!」」
二人から視線を反らしたまま二度目のセリフを告げると、ティーカップを手に立ち上がって、流しへと置いて水を流す。
物語では彼女と景光は接点が余り無かったのは本当みたいだけど、ゼロ、貴方になら、このセリフの意味がちゃんと伝わった。よね?
「ご馳走様」
そして、リビングの扉の前で振り返る。
「その時が来たら、お話しします」
記憶にある物語の出来事がこの世界でそのまま起こるのかどうか、私にはまだ何一つとして分からないけど。
全てが、手遅れにならないように。
この身を投げ打ってでも、必ず陣平も景光も班長も助けてみせる。
物語とは言え、みんながあんな哀しい思いをするのは一度きりでいいから。
あと三度も哀しい思いをするのは、この事実を知っているのは、この世界で私一人だけでいい。
例え、私が知っているこの世界の未来を変えることになってしまっても、それはこの世界で私以外の誰にも知られることはないから。
だったらもう、迷いはない。
私の進むべき道は、たった今決まった。
「おやすみなさい。景光、ゼロ」
あえて返事を聞かずに、私は扉を閉めた。
「ゼロ、だって」
「勝手に名前で呼ぶな」
「だったら、ゼロは望月さんって呼ばないとね」
「……」
「松田のことも名前で呼んでるだろう?オマケにすっかり仲良しだし、あの二人」
「『女は秘密を着飾って美しくなる』」
「さっきの?こないだも言われた、けど」
「あの女のセリフだ」
「……あの、女?」
「ベルモット」
「!!」
「以前から、可能性があるかもしれないとは思ってはいたが、組織のことを知っていると言う、彼女からのメッセージだ」
「……そうか」
「別れの時は近いぞ」
「ああ」