第2章 *File.2*
「景光が紅茶を淹れてる」
「分かった。何時来たの?」
「ついさっき」
「おかえりなさい」
「…ただいま」
「…あれ?」
今、ゼロと普通に会話した?
思わず、顔を上げた。
「演技が下手。あれは松田に合わせていただけだ」
「…卑怯者」
「どっちが」
腕を掴んだまま振り返るゼロを睨むと、高い位置でフンと鼻で笑われる。
「陣平が、可哀想?」
「意外と単純なトコあるからな、アイツ」
ゼロの視線がもう一度私に向けられたけど、その綺麗な蒼い目が笑ってる。
ホントにイケメン。
見返り美人。
「「ぷっ」」
陣平には申し訳ないけど、私とゼロは同時に吹き出し笑ってしまった。
「どうして、秒殺で仲良くなれるワケ?」
「「さあ?」」
何故か、景光が膨れっ面で私とゼロを見比べてる。ってことは、さっきの会話を一部始終聞いてた?
何で?ってか、恥ずかしい!
「納得行かない」
景光がブツブツと、数日前の陣平みたいなこと言ってる。
「ずっと、あのままの方がよかったのか?」
「それも困る」
「誰が?」
「……」
形の良い眉をキュッと寄せて、中々可愛い表情だ。
目の保養になる。
「美味し」
喫茶店みたいに小さなミルクピッチャーからミルクを注いで、グラニュー糖を少し。
ちょっとした料理屋でも開けるぐらい、景光が作る料理は何でも美味しい。
案外、警察官より似合ってるかも?
景光とゼロが二人で飲食店を始めたら、きっと、すっごい人気店になるんだろうなー。
「俺は参戦しない」
「今は、だろう?」
「??」
チラリとゼロの視線がこちらに向いて、首を傾げる。
「お望みなら、俺も参戦するが?」
「遠慮するよ」
「どっちだよ」
ゼロが深いため息を洩らす。
「そもそも勝算のない勝負はしない主義だ」
「??」
「そんなヒマもなくなるしな」
「……」
水面下では、もう本格的に動いている。
黒の組織への、潜入捜査。
解決は何年先?
最低三年、か。
長い、な。
最初から考えてはいたけど、ずっと此処に居るわけにはいかない。
近いうちに、決別しなければいけない。
景光の好意ですっかり居心地が良くなった、今の生活から。
景光の傍、から。