第2章 *File.2*
「それから、証人保護プログラムの登録も完了したよ」
「重ね重ね有難うございます。この御恩は一生をかけて、お返しいたします」
雪乃は穏やかな口調でそう言うと、丁寧に深々と頭を下げる。
「楽しみにしてるよ」
普段と変わり無くそう返答すると、
「はい」
顔を上げた雪乃が、年相応の綺麗な笑顔で頷いた。
「「!!」」
さっきの彼女の様子からは想像も出来ないほど、品のある洗礼された大人の女性がそこにいて、オレと松田は驚いて息をするのも忘れた。
正に絶句した。
とは、このことだ。
「どうかしたの?二人とも」
「「……」」
普段の彼女の声で我に返ると、そこにはさっきまでの可愛らしい雪乃がコーヒーカップ片手に首を傾げてる。
「お前、何重人格だよ?」
「女は秘密を着飾って美しくなるのよ。なぁんてね?」
ふふふっ。と、ウインクしながら、今度はお茶目に笑ってみせた。
「「……」」
こんなにもの魅力的な女を目の前にして、惚れない男は先ずいないと思う。
とかいうオレも、雪乃に惚れ直したみたいだ。
さて、どうしたものか?
「仕事は大丈夫だった?」
「今日は内勤だったし、することは全部終わらせたから問題ないよ」
「…そっか」
松田を見送った玄関先でそう答えると、ホッとしたように呟いた。
「ごめんなさい」
「謝らなくていい。事情が事情とは言え、ずっと見張りが付いてて、精神的にしんどかっただろう?」
「…景光は、優しいね」
ポンポンと髪を撫でれば、泣きそうな顔で笑うから思わず抱き締めた。
勿論、映画館で泣いていたのも知っている。
きっと、映画なんて全く観ていない。
同じ泣くのなら、この腕の中で思いっきり泣いてくれればよかったのに。
大音量の音声が響く中、周りに気づかれないようにと小さな、微かな嗚咽がイヤホン越しに聞こえた瞬間、どれだけキミの元へ駆け付けたかったか。
ようやく此処で穏やかに過ごし始めたキミが、オレの想像以上に、その心に複雑で様々な感情を押し留めているのを知った瞬間、どれだけこの腕の中に抱き締めたかったか、キミは知らない。
「ひ、景光っ?!」
「…消毒」
「って、何の?」
「松田にされた、だろう?」
「み、見てたの?」
「ナイショ」