第2章 *File.2*
「自己嫌悪、だって」
「何故?」
「雪乃の可愛さに、気付かなかったから」
正しくは、今まで気付こうとしなかった、から。
「そっ、それはないない!私はそこらのぺんぺん草で十分ですから!」
と、突然真顔で言うと、ワンピースを翻して自分の部屋にすっ飛んで行ってしまった。
「ぷっ」
もうムリ!と、オレは腹を抱えて笑う。
ぺんぺん草って、何?
雪乃の発言は時々、予想を遥かに超えて来る。で、面白くてツボにハマる。
「…未知の生物か?」
松田は半ば呆然として、雪乃の後ろ姿を見送っている。
「あれで27歳」
「冗談だろ?!俺らより年上っ?!」
「見えないよね」
付いてた肘を滑らせて、こんなに驚いてる松田も中々お目にかかれないな。
今日は何かと色々と記念になる、一日だ。
「ってか、お前らずっとこんな調子かよ?」
「出逢って三日目にやっと、ね」
目が覚めたあの瞬間から、二人でいてもずっと表情は固いまま、言葉遣いは丁寧だけど、そこに感情はなく。
松田達が雪乃を警戒していたように、雪乃もまた言葉にはしなくても、オレ達に対して常に油断を見せずに警戒心を解かなかった。
だけど、きっとまだ。
心の中では、自分の生命をオレに委ねたままだ。
「……」
「?」
「諸伏、お前が一番タチ悪ぃわ」
「何処が?」
全ては、雪乃を渡さないため。
宣戦布告。
松田、君にはもう伝わってるよね?
ジロリと睨んで来る松田に、オレは何も気付かないフリをして、首を傾げてみせた。
「ちょっと話を聞いてもらっていい?」
「私?」
「うん」
今までと違い、穏やかな雰囲気で夕食を食べてしばらくした後、雪乃に頷いてみせた。
「コレを先に渡しておくよ」
契約が済んだばかりのスマホ。
松田から連絡があった後、オレは雪乃が映画館にいるのを知ってたから、ゼロと松田と分かれるなりスマホショップに直行した。
もちろん名義はオレで、使用者もオレ。
今時はスマホの一人二台持ちなんて珍しくないから、助かった。
「えっ?でも…」
「そこは素直に諸伏に甘えとけ。持ってて困るモンじゃねえし、寧ろ持っとけ」
「そういうこと。ただ申し訳ないけど、やっぱりGPSはつけさせてもらったよ」
「うん。ありがと」