第2章 *File.2*
「なあ、何時から?」
「何が?」
「雪乃がお前のことを、名前で呼んでるのが!」
「目が覚めた、その日から」
実際に初めて呼んでくれたのは、三日目。だけどね?
そもそもゼロと松田が盗聴器を付けると騒ぎ出すから、当たり前だけど、その条件として、オレだけが電源を操作出来ること。オレが留守になる、雪乃が一人になる時だけ電源をつけること。と言っておいた。
裏を返せば、この家にオレがいる時は盗聴器の電源が全てオフ=雪乃の発言が自由になるってことだ。
「お前っ!」
「何?」
予め、それを雪乃には伝えた。
雪乃はオレ達が警察官だと知ってたから何も隠す必要はなかったし、せめてオレと二人きりの時ぐらいは、少しでも雪乃は雪乃らしく自然体でいて欲しかったから。
『オレはキミのこと、雪乃って呼んでもいい?』
『…はい』
『雪乃はオレのこと、なんて呼ぶ?』
『諸伏さん?』
『ダメ』
『…ダメって、言われても』
『じゃあ、オレが決めていい?』
『はい』
『景光=ヒロ。で、決定』
『えっ?でもそれは幼い頃に降谷さんが名付けてくれた、大切なモノでしょう?』
もう、随分前のことみたいだ。
あの時の、戸惑った雪乃の大きな瞳をよく覚えている。
「どうかしたの?」
帰って来たばかりで荷物の整理をしていただろう雪乃が、今は自分の部屋として使っている部屋のドアを開け、玄関先にいるオレ達の方へ顔を覗かせる。
「松田がヤキモチ妬いてるトコ」
「諸伏っ!」
「違った?」
「…ヤキモチ??」
ニッコリ笑うオレと目をつり上げて怒る松田の顔を見比べて、雪乃はハテ?と、首を傾げた。
「へぇ」
「?」
「やっぱり…」
「えっ?何か変??」
ひたすら遠慮する雪乃に、半ば強引にオレと松田が見立てて買った花柄のワンピースを摘んで、自分を上から下までキョロキョロ見下ろしている。
「逆。似合ってんの」
「へっ?」
素っ気はないけど松田の褒め言葉に、雪乃の顔が素直にポンッと赤くなった。
確かに松田の言う通り、よく似合ってる。
それを選んでよかった。
「納得行かねえ」
「??」
テーブルに頬杖をついて不貞腐れた顔をする松田を見て、オレに返答を望んでいるらしい。