第2章 *File.2*
彼女の俺に対する態度も、俺から離れて一人きりで映画館で泣いたのも。GPS付きだと知っていたのにも関わらず、盗聴器をぶっ壊したのも。
これ以上、諸伏に迷惑をかけるぐらいなら、自分を知る人が誰一人いないこの世界で、最悪本当に一人きりになってしまってもいい。と、そこまで考えた?もしかしたら、その目的もあってお金を借りたのか?
俺より少し後ろを歩く、雪乃の方を振り返って立ち止まる。
「?」
それに習って雪乃も立ち止まり、視線が合った。
なーんだ。
よく見たら、澄んだキレイな目してるじゃねぇか。
俺は傍にいる時でさえ、彼女の眼すらまともに見てなかったのか。
何時も助けを求められたから諸伏に付き合ってただけで、嫌悪感を剥き出しにしたまま、彼女の内面を考えも見向きもしなかった、か。
「どうかし…えっ??」
気付けば、雪乃を抱き締めていた。
歩道のド真ん中で。
「悪かった」
「何が?っていうか、離、して。お願い、だか、ら」
「はっ?」
身長差から頭上で謝罪を述べれば、今まで聞いたことがない、動揺して上擦った声が胸元から聞こえて、まさかな?と腕を緩めたら、耳まで真っ赤にした雪乃がいる。
男の目から見て、普通に可愛いオンナがそこにいた。
「お前、実は男に免疫ねぇだろ?」
「あることはある、多分。ってか、早く離せ!」
あっちの世界では、彼氏がいたことがある、か。
「嫌だ」
「はい?」
「約束しろ」
「何を?この状況じゃなくても約束は出来るから、離せ」
「さっきから、さり気なく命令すんな」
「命令させてるのは、アンタでしょうが!」
真っ赤だったのは一瞬で、もう元通りかよ。
「つまんねぇ」
「何が!」
じたばた暴れる雪乃を体格差で封じ込めていると、ポケットで鳴り響くスマホの着信音。
『引っ付きすぎ、目立ちすぎ、雪乃から早く離れて。後10分ぐらいで合流出来そうだから、その約束とやらはオレにも聞かせて。じゃあ、また後で』
「……」
諸伏のヤツ、カバンの他にも盗聴器付けたのか?
俺が通話ボタンを押すなり一方的に言いたいことを言って、勝手に切りやがった!
「景光から?」
「はっ?お前、アイツのこと名前で呼んでんの?」
「!」
今、普通にヒロって呼んだよな?
それも感情を乗せた、柔らかい声で。