第1章 *File.1*
キミの言葉と瞳から見え隠れする感情がチグハグ過ぎて、オレの感情までもが揺さぶられる。
「オレは……」
「?」
「キミを殺せない」
「どうし、て?」
戻って来た瞳は、大きく見開かれた。
「だから、この手を放して」
「!」
「これは、キミが触れていい物じゃない」
こんな物騒極まりないモノは。
それでもこの物騒極まりないモノがこの国を、この国の誰かを守るためのモノだと言うことは、彼女もよく知っているだろう。
トリガーから指先を放すと、その手で彼女の小さな掌に触れて、ゆっくりと拳銃を取り上げた。
その掌は確かに女性の手。
繊細な肌は柔らかくて、温かい。
オレと同じ、生身の人間だ。
「……」
初めて目が合った、あの瞬間の無邪気で可愛いキミの笑顔はウソじゃない。
きっとあの笑顔こそが、キミの本音。
ごく自然な素直な感情。
『景光(ヒロ)だ』
と、嬉しそうにオレの名前を呼んだキミの可愛いらしい声は、まだこの耳に残ったまま離れない。
「……ダメよ。得体の知れない見知らぬ女に優しくなんかしたら、きっと付け込まれてしまう」
「……どうして?」
「貴方は……誰よりも優しい人、だから」
彼女の声に、初めて感情が含まれた。
儚くもあり優しくもあり、哀しさと切なさを含んだそれは、オレの心に真っ直ぐに、綺麗に響いた。
何故だ?
締め付けられるほどの切なさを、この心に感じるのは。
まるで今の彼女の感情が、そのまま伝わって来たかのように。
「……有難う。でも大丈夫。オレはもうキミの名前を知ってる」
オレを優しい人だと言ってくれる、キミの方がきっと優しい人だと思うよ?
「だったら、私を警察に連れて行って」
オレに迷惑をかける、から?
「それも出来ない」
「どうしてっ!」
「今にも泣き出しそうな目をして言われても、説得力がない。それに……」
「……」
「オレ自身が、イヤだから」
出逢ったばかりなのに、キミを喪いたくはない。
それは何故?
「??」
眉を寄せ、心底意味が分からない。と、顔に描いてある。
オレだって、ハッキリとした理由なんて分からない。