第1章 *File.1*
「一度死んだって、どういう意味だ?」
「此処ではない世界で交通事故に遭って、私は間違いなく死んだんです。って、説明したところで証拠は何一つとしてないのだから、信じてはもらえないでしょう?だから、今直ぐその手で私を殺して。そうしたら、何も無かったことになる。私と貴方が出逢ってしまったことも、私の存在全てが無に還る。それが一番いいでしょう?お互いの為にも」
「……此処ではない、世界?」
一体どういうことだ?
「漫画や小説で良くあるでしょう?死んで目が覚めたら、異世界に飛んでいた。或いは二次元の世界だった。的な話」
「……キミにとって、この世界は?」
真夜中の寝室の天井から突然舞い降りて来たのは、眠ったままだったキミ。
ちなみに此処は一軒家ではなく、マンションの一室であり、最上階ではない。
「完全たる二次元の世界です」
キッパリと言い切った。
だから、一度目覚めた瞬間の反応が今とは真逆だった?
あの時は、オレに逢ったのが夢だと思った?
彼女にとって二次元の世界の登場人物だったから、オレの名前を知っていた。
そう考えれば、理には叶う。
彼女の言動は当然のことながら、存在全てが謎だらけで、摩訶不思議でしかないこの状況も?
だけど……。
少なくとも今、無抵抗な女性に向けるモノではないハズだ。
これ、は。
「……ごめん」
「どうして?貴方は貴方の立場上、当然の行動を取っただけ、でしょう?」
「!?」
この目がゆっくりと大きく見開かれたのを、ハッキリと自覚した。
張り詰めていた息を吐いて降ろしかけた拳銃を、彼女の白く小さな掌が包み込んだから。
躊躇いもせず、真っ直ぐに銃口を自分の左胸に押し当てて。
言葉通りに死に恐怖を抱くことも無く、オレを一切責めることもなく。
きっと、この部屋で一人でいた短い時間にこうなることを予想して、対策を考えていた。
オレが警察官だと、知っていたから。
「貴方が謝ることも気遣うことも何もない。どうせなら、このまま他の誰でもない、貴方に殺されたい。この世界には、私を知る人は貴方以外に誰もいないんだから」
まるでオレに言い聞かせるように言ったのに、その綺麗な瞳は切なげな感情を帯びて揺れ、それを隠すようにそっと逸らされた。
それは何故?
キミから吐き出される言葉は、何処までが本心で何処までがウソ?
この状況で、どうして泣きそうになる?
