第1章 *File.1*
「後はね、大阪府警本部長の服部さんと刑事部長の遠山さんのコンビ」
「ぶっ」
「?」
口元に手を当てて、吹き出しそうになった?
「……何故?」
「渋いから。でも近くで会うのは怖いから、遠くから見て声を聞けるだけでいい」
あんなに渋くて近寄り難いのに、二人とも意外と子煩悩でお茶目なんだよね。
「……くっ」
「何か笑うトコ、あった?」
「くくくっ。理由が、渋いから……でも、怖いって……」
肩を揺らして、こんなに楽しそうに笑うの、初めて見たかも。
最近の景光はびっくりするぐらい、私といる時は凄く自然体で。
私に対して警戒心もなければ、嫌悪感も見せない。
これは本当の姿?
それとも。
私を油断させるための、嘘偽りの姿?
本当のことは分からないけど、本心だったらいい。なんて、また都合のいいことを望む自分に自己嫌悪。
「まだ、食べる?」
「ん?」
ハッと意識を戻せば、用意されたクッキーは完食していた。
ようやく笑いが止まったらしい。
「も、もう大丈夫!」
「そう?」
「ありがと」
「雪乃はそのままがいい」
「?」
「オレが見たかった雪乃」
「……その言い方、怪しい。でも、景光の言いたいことは分かった。から」
「それはよかった」
彼の優しい笑顔がそこにあって、もう、この人には敵わない。と、頭の中で白旗を揚げた。
それと同時に、諦めることにした。
私にとって諸伏景光という一人の人物を嫌いになれる要素が、何一つとしてないから。
此処を出て行くこと。
彼を信じないこと。
私の意志とは関係の無い場所から与えられた、この運命から、抗うことを。