第1章 *File.1*
「美味しっ」
思わず、一口齧ったまだ温かいクッキーをガン見した。
クッキーの生地を冷凍してたんだ。
プレーンとココアのアイスボックスクッキーはサクホロで、甘さ控えめ。
普段はあまり食べないクッキー、だけど!
洗濯物を取り込み畳み終えて片付けてからリビングに戻ると、ローテーブルに並べてあったのは、数種類のクッキーと淹れたばかりのミルクティーだった。
「口に合ったみたいで、良かった」
「もしかしなくても、手作り?」
「まあね」
「お店出せるよ!」
「……有難う」
少し照れ臭そうに、景光は視線を逸らした。
かっ、可愛すぎるんだけど!
胸がキュンキュンする!
あー、自慢したい!
あっちの世界中にいる、景光推しに!
でも、それよりも。
ただ、幸せ。
景光と過ごす、穏やかな貴重なこの時間が。
何よりも大切にしたい。
この人生も、何時終わりを迎えてしまうか、私には分からないから。
「向こうの世界のオレ達って、どういう感じ?」
「話の軸は今から三年後。主人公の名探偵は……置いといて、話の内容はひたすら推理モノ、かな?」
「三年後?」
「うん。たまに過去に戻ったり、超焦れったい主人公達や刑事達の恋愛話が入って来たり。とにかく主人公の周りで殺人事件が……」
「が?」
「ありすぎるから、警視庁関係や馴染みの他府県の刑事さんもたくさんいたりする」
「ありすぎる?」
「そう。ありすぎる」
連載開始から30年!
コミックは100巻越えてるのに、内容は一年経ってないのよ?
その間に、一体何件の事件があった?
既にもう数件連日事件発生状態だ。
「ちなみに、逢ってみたい人は?」
「いるよ、たくさん」
一番逢いたかった人には逢えたから、これ以上贅沢は言わない。
「その中でも一番逢いたい人は?」
「いるよ」
「そうじゃなくて、その人には、もう逢えた?」
どうして、そんなに真剣な眼差しで聞くの?
私の心まで見透かすような鋭い視線に耐えられなくて、視線を逸らしてから、温かいミルクティーを一口飲む。
やっぱり景光が淹れたミルクティーは、私の心を落ち着かせてくれる。
まるで、魔法の飲み物みたいだ。
一度閉ざした目を開いて、正直に応えた。
「逢えたよ」
「……そっか」
でも普通に考えて、その該当者は景光とゼロ、陣平の三人しかいなくない?
景光は、一体誰だと思ったの?
